トランプ大統領の最終目標は米金融界の解体と文明の多極化ー相互関税など高関税政策はその重要な手段(追記:米国新産業革命)

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トランプ大統領がいわゆる「同盟国」を中心とした相互関税など高関税政策を打ち出したことで、米側陣営を中心に金融・資本市場が大混乱に陥っている。相互関税は米国東部時間の4月9日に90日間、一時停止されたが、一時停止されただけで90日後には取引(交渉)に応じない国に対して、米国は本格的に相互関税をかけるようになるだろう。米国はこれまで、産業と雇用を海外諸国に流出させる一方で、安価な製品を輸入してきた。しかし、その結果、巨額の財政赤字に加えて大幅な経常赤字の「双子の赤字」を抱えるようになり、世界最大の対外純債務国に転落してから久しい。海外諸国は対米貿易黒字で得たドルで米国の債券や株式など有価証券を購入して、利子所得を得る一方、米国にはドルが還流してきた。このため、ドルの過剰流動性による世界的な大インフレはある程度抑制されてきたが、「地球温暖化を阻止するため」と称して、バイデン前政権が温室効果ガス(二酸化炭素)排出規制を本格的に行い、エネルギー価格が高騰したために起こったコストプッシュ型インフレも加わって、もはやそれも限界に達している。加えて、米国では金融業が栄え、産業が衰退するとともに、一部の金融投資家と一般国民の格差が極限にまで拡大し、国家としての安定性が保てなくなった。トランプ大統領の最終的な狙いは、高関税政策による産業の再生と、有価証券、特に、債券の価値に対する信認の剥奪を通してでも、米国で暴利を貪ってきた金融界を解体することで、米国を産業国家として再建することとともに、BRICS経済圏の創設を契機とした文明の多極化だろう。

トランプ大統領、米金融界を解体。ドル基軸通貨体制放棄も視野に

4月2日の相互関税の発表以降、9日の一時停止までの金融・資本市場の動きについて、反トランプでリベラル左派のオールド・メディアはどう見ているのか。日本での代表格であるNHKの見方を紹介する(https://www3.nhk.or.jp/news/html/20250411/k10014774791000.html)。

4月2日、トランプ大統領が関税政策の本丸と位置づける「相互関税」を発表する場として選んだのはホワイトハウスの庭園「ローズガーデン」。歴代大統領が重要な発表をする特別な場として選ばれてきました。ここでトランプ大統領は「経済的な独立の宣言」と高らかにうたい、「今こそわれわれが繁栄する番であり、何兆ドルもの繁栄を実現し、その過程において何兆ドルもの減税と、国家債務の削減を行うことができる」と述べました。しかし、実際には「何兆ドルもの繁栄」どころか冒頭に書いたとおり、わずか3日間で10兆ドルもの世界の株式の時価総額が“蒸発”してしまったのです。

これは相互関税発表前後のアメリカ国債10年ものの金利グラフです。株価が急落する局面では、安全資産とされる国債を買う動きが出て、金利が低下するのが一般的です。4月4日までは方程式どおりに株価下落に不安を感じた投資家が株式を売って国債を買う=金利が低下する動きが起きていました。ところが4月7日以降、奇妙なことが起きていました。株価が急落する局面でも国債が売られ、金利が上昇していたのです。この金利上昇は4月9日の相互関税発動の前に一段と進み、10年ものの米国債の金利は一時、4.5%を超えました。このいびつな金利上昇がトランプ大統領の相互関税の90日間停止の決断に結び付く大きな要因となりました。

米国の国債(10年物債券で代表)の金利が急騰したことが、相互関税の90日間の停止に結びついたというのが、未だに左派リベラリズムのオールド・メディアの基本的な見解になっている。しかし、トランプ大統領を支持する一部の識者などからは、債券の金利が急騰したのは、資本市場で大儲けをしているヘッジファンドが、相互関税の90日甘停止という不意打ちを喰らい、100倍ものレバレッジで大量に借りていた米国債を手仕舞いで、投げ売りせざるを得なくなったことによるものとの見方もある。

これは、1971年8月のニクソン大統領による金ドル交換停止(第1次ブレトンウッズ体制の崩壊)、72年8月のニクソン訪中を背景として、1975年証券取引法の改正(株式市場での委託手数料の自由化)から始まった「金融ビッグバン」以降(特に、ニクソン、レーガン大統領が仕掛けた米ソ冷戦の勝利以降)、金融・資本業界だけが大儲けをして、一般の米国民は困窮し、巨大な格差が生じているといういびつな米国の経済構造を大リセットするため、トランプ大統領率いるトランプ政権が、広義の金融界の解体に着手し始めたことが主な理由、とする見方も出ている。サイト管理者(筆者)としては、こちらの見方に賛成している。

4月9日から始まった相互関税の一時停止に際して米国を中心とした世界の株式市場では株式相場が暴騰した。普通は相互関税の実施などで株式相場が暴落すると、安全資産として国債など債券市場に資金が流れて国債の金利は下がるが、今度は逆に国債の金利は上がった(債券相場は下落)。これは、ヘッジファンドが手掛けるベーシス取引で、ヘッジファンドが失敗したためだ。ベーシス取引とは、国債の金利差や価格差に注目して、割安な投資対象を買い、割高な投資対象を売るポジションを取ることで、両者のサヤを抜こうとする手法のことだ。両者の価格が収縮したとき、反対売買を行うことで投資収益をあげることができる。収益は少ないため、レバレッジは100倍程度もある。

しかし、トランプ大統領が相互関税の一時停止を突如発表したため、米国債の金利が異常な動きを見せてヘッジファンドが大失敗を演じたため、レバレッジで大量に借りていた国債(債券)を売却して、手仕舞わざるを得なかったためで、ヘッジファンドは大損をした。これは、トランプ政権が進めた金融界解体策の手始めだと見られる(株式投資の実務経験を有するYoutubeのイエアンドライフ・チャンネル主催のゴトウ氏)が「【荒れる金融市場】トランプ氏、中国とプロレスを始める(https://www.youtube.com/watch?v=E3Vr5zppc84&t=379s))。なお、トランプ大統領に対して、関税政策などの経済政策を指南しているのは、ニューヨークのシンクタンク、マンハッタン研究所のフェローで、投資会社ハドソン・ベイ・キャピタル・マネジメントのシニアストラテジストのスティーブン・ミラン氏(https://www.jetro.go.jp/biznews/2024/12/9d5a2d01a01697c8.html)だ。

さて、トランプ大統領は中国に対しては、相互関税をかけることを停止していない。中国からの米国への輸出品に対して、100%を超える関税をかけるということは、中国とは経済的にデ・カップリングするということの意思の表明だろう。中国はロシアとともにBRICS(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ共和国のほか、エジプト、エチオピア、イラン、アラブ首長国連邦=UAE=、インドネシア。サウジアラビアはステルス加盟)の盟主だが、イエアンドライフ・チャンネルのゴトウ氏が「【荒れる金融市場】トランプ氏、中国とプロレスを始める(https://www.youtube.com/watch?v=E3Vr5zppc84&t=379s)」で明らかにしたように、非米側陣営諸国はBRICSに引き取ってもらうつもりのようだ。

BRICSの2025年サミットは7月6日、7日、ブラジルはリオデジャネイロで開催される(https://news.yahoo.co.jp/articles/71557964cc2e9c4c8a3eaef3ce997914a1fc4d00)。議長はブラジルのルーラ・ダ・シルヴァ大統領で、主な議題は人工知能(AI)ガバナンス(AIの健全な発展に向けての取り組み)、世界的な健康協力、金融改革、 世界的な影響力の拡大などだが、ロシアが構築に向けて、積極的に取り組んでいると見られる新たな国際貿易決済システムについて、ある程度踏み込んだ発表が行われる可能性もある。イエアンドライフ・チャンネルのゴトウ氏は米国との貿易取引がなくてもやっていけることを前提とした(国際貿易決済システムを含む)国際経済システムが発表されると見ている。

国際情勢解説者の田中宇氏も、ゴトウ氏と同じような見解を投稿している。田中氏はすでに4月9日、「トランプは金融を潰すつもりかも(https://tanakanews.com/250409trump.php=有料記事(https://tanakanews.com/intro.htm)=」と題する記事を投稿・公開していた。この記事は、リード文が「トランプ高関税の目的の一つは、米国中心の既存の金融システムを破壊することでないか。政治面で見ると、既存の米覇権はロシア敵視だったが、トランプはロシアと密談を重ねて和解した。この政治面の米覇権破壊を見ると、経済面の米覇権潰しである高関税と金融暴落も、トランプの意図的な策と考えられる」で始まる。一部を紹介させていただくと、次のような記述がある。

そもそも論として、マスクもトランプも、隠れ多極派のロックフェラーも資本家だ。自分や自国の資産の極大化を求めるはずの資本家が、金融の崩壊や米覇権の自滅を目論み続けるのは不可解だろう。実際は、ロックフェラー傘下のキッシンジャーが中国と和解し、米国の資本と技術で中国を富ませて米国をしのぐ超大国にまで成長させた。このことが象徴するように、大資本家は、自分や自国でなく、世界の資産の極大化を求めていく(究極の慈善事業として?)。これはまさに、私の持論である「資本と帝国の相克」にあたる。帝国(英国系)は、自国の極大化を求めて世界を搾取し、対抗してきそうな他の大国(中露とか)を台頭前に潰す。資本(隠れ多極派)は、帝国に潰されそうな勢力を支援して世界を多極化し、世界の資産極大化を求める。

トランプは、世界中に高関税をかけ、とくに中国とは報復関税をかけ合う関税戦争を始めている。この事態は長期化しそうだ。中国は、米国に輸出しにくくなった他の諸国に対し、BRICSや一帯一路などを基盤にした、米国(米欧)抜きの非米側の自由貿易体制を強化しようと持ちかけ、世界を自分の側につけていく。世界は、米欧(米覇権)以外のところで自由貿易やグローバリズムを充実させていく。中国もロシアも印度もアフリカも、今すでに自由市場(注:市場経済)だ。米欧に邪魔されずにつながればうまくいく。"Tariff War Just Begun": Beijing's Counter-Tariff Options Against Trump Leaked By Bloggers)。帝国(注:バイデン政権以前の米英単独覇権体制の米英欧)が縮小し、それ以外の多極型の世界が台頭繁栄する。長期的に、世界の庶民の生活が向上していく。米国は、欧英との対立を強め、非米側の多極型世界に鞍替えしていく。いずれ米国の製造業も復興する。これが、トランプの真意だと考えられる。

田中氏は11日付けで「金融が破綻しそう(https://tanakanews.com/250411dollar.htm)」と題する無料記事を投稿・公開しているが、こちらの投稿記事では、米国債(債券)の金利が今後、高騰(価格は暴落)していくことを強調している。これは、従来のドル基軸通貨体制(現実的にはペトロ・ダラー体制=ドルでないとサウジアラビア産原油は購入できない=。ただし、中国・習近平国家主席の2023年末のサウジアラビア訪問で、人民元でも原油を購入できるようになり、ペトロ・ダラー体制には事実上、穴が開いた)が終焉することを示唆しているように思われる。

トランプは、世界がドルを見捨てるように画策しているように見える(隠れ非ドル化屋)。中国が関税戦争をやめないなら、次は米国の株式市場に上場している中国企業(全部で286社)を上場廃止に追い込むかもとトランプ政権が言っている。中国企業を追い出したら、米国株は暴落が加速する。トランプはいったん米国を潰していく(多極型世界の米州の極として再起する)。Chinese companies could be removed from US stock markets

金融崩壊が始まると、米連銀(FRB)がQT(造幣減で債券放出)をやめて、QE(過剰造幣して債券買い支え)を復活すると予測されている。連銀がQEを再開したら、いったん金利が下がり、株価が反騰する。しかし、BRICSなど世界の米金融への敬遠や非ドル化の動きは変わらない。むしろ(欧日など軽信者以外の)世界は、QE再開を見て、米国が金融破綻に瀕していることを感じ取り、非ドル化に拍車をかける。"End Of An Era": Deutsche Bank Warns If Treasury Market Disruption Continues, Fed Will Have To Start QE

そのようなドル崩壊の流れになるのかどうか、今後の1-2週間で見えてくる。5月9日にモスクワで(対ナチス)戦勝記念日の祝賀会があり、プーチンは非米側諸国から広く要人たちを招待している。習近平も(インドの首相の)モディも行く。4月中の展開が早ければ、ロシアの戦勝記念日の会合が、BRICSなど非米側による米国(ドル)潰しの戦勝祝賀会になる。プーチンが含み笑いしている。Modi likely to attend Victory Day parade in Moscow

第二次世界大戦後に続いてきた欧米文明は、ニクソン大統領による中華人民共和国に対する関与政策を経て、1989年12月2日から3日に地中海のマルタ島で行われた米ソ首脳会談(マルタ会談)で事実上、終結し、民主主義対共産主義という対立の図式は終焉した。しかし、「平和の配当」を生かせないまま、ドル基軸通貨体制は続き、英米ディープステート(DS=諜報界)に内の英米単独覇権体制派が、北大西洋条約機構(NATO)の約束違反の東方拡大(その延長線上にウクライナ戦争)を行ったため、リベラル左派に傾斜した米国民主党政権を前面に押し出して、現実的には英米単独覇権体制が存続してきた。その結果として、中国が超大国化し、英国に操られた米国は衰退の一退をたどっていたところ、昨秋の米国大統領選挙でトランプ氏が米国史から見て、奇跡的に一期をあけて、大統領に復活再選された。

ドル基軸通貨体制の崩壊、金融・資本・為替市場の大混乱、非米側陣営諸国の民主主義の破綻など、今後、様々な混乱が起きる公算が大きい。トランプ大統領・政権がこれらの混乱を乗り切ることができるか。ひとつの解決の道は、米国が米側陣営から完全に脱出し、現代版モンロー主義を掲げる米州主義国家として、非米側陣営の主要な国家として同陣営の強化に協力することだろう。多極化された文明は、調和し、統合に向けて歩むことが必要だ。そのために、米国は産業の活性化と新産業の育成政策を根幹にするとともに、建国の理念であるキリスト教(主としてプロテスタンティズムの福音派)を見直し、アメリカ合衆国の統合の理念であるキリスト教の一大宗教改革運動が起きなければならないだろう。新産業国家として再生するためには、20世紀初頭に現代社会学の基礎を形成したマックス・ウェーバーが指摘した「禁欲の倫理(エートス)」を上回る「創造の倫理(エートス)」が不可欠だからだ。

なお、米国で有力視されている次世代産業とは、インターネットやAI技術など国防産業から生まれ、民生用技術にも応用・転換された技術を基に発展した軍需・民需産業のこと。軍需産業としては、イスラエルで既にアイアン・ドーム(核をも搭載可能なミサイル迎撃防空システム)が配備されているが、トランプ政権は、国防総省(ペンタゴン)とロケットエンジンを開発する米Ursa Major(ウルサメジャー)が協力して、さらに進んだアイアン・ドーム(ミサイル迎撃防空システム)の開発を行っている。米国の経済に詳しい国際情勢アナリストによると、これらの国防産業によって開発された新技術システムは、民生用への応用も目指されているとのことだ。

イスラエルに配備されたアイアン・ドーム。ハマスからの大量のミサイル・ドローン攻撃を防ぐ=Yahooニュース

なお、日本は米中両国の顔色をうかがっている岸石政権(宏池会の主流派である岸田派の実質的な領袖である岸田文雄前首相に支えられた石破茂政権)ではもたないだろう。トランプ大統領は、日米安全保障条約に対して、改めて不満を強く述べている(https://www3.nhk.or.jp/news/html/20250411/k10014776271000.html

トランプ大統領は10日、ホワイトハウスで記者団に対し、アメリカが、これまで自国が不利になる取り引きを各国としてきたという認識を示した上で、日米安全保障条約について「日本とはとてもうまくやっている。しかし、私たちは彼らを守るが彼らは私たちを守る必要はない。私たちは協定を結んでいて、多くの金を払って、守っている」と述べて不満をにじませました。そして「これは数ある取り引きのうちの1つだが、誰がこのような取り引きをしたのか疑問に思う。私たちの国を嫌っている人たちか、気にもとめていない人たちだ」と述べました。トランプ大統領は日米安全保障条約は不公平だという認識を1期目からたびたび示し、3月にも今回と同様の発言をしていて、重ねて不満をにじませた形です。

トランプ大統領が問題にしている政治家・官僚とは、吉田茂を源流とする宏池会系の政治家・官僚(財務省・警察庁・経済産業省の御三家に外務省を加えた4省庁の高級官僚)と思われる。ウクライナ戦争が勃発した直後の2022年7月8日に、狙撃テロで暗殺された安倍晋三元首相は、トランプ大統領と意思を疎通できた数少ない首脳の一人だったが、安倍元首相の狙撃テロ事件には、真相究明を邪魔している勢力が確実に存在する。トランプ大統領は日本政府に、意思の疎通が可能だった安倍元首相の狙撃テロ事件の究明を求めてくるだろう(https://www.youtube.com/watch?v=4xBdmsG4drM)(https://www.youtube.com/watch?v=v9oOdK_xiLY&t=9s)(https://www.youtube.com/watch?v=kRd9S1Ptaxg)。

以下は、外務省国債情報局長、イラン大使、防衛大学教授を歴任された孫崎享・東アジア共同体研究所長の説明である。

安倍晋三元首相の死因については、奈良県立医科大学附属病院の救命チームと警察庁(奈良県警)の司法解剖(と思われる)の説明が食い違っており、救命チームでは山上徹也被告の単独犯行ではないと述べていたが、この死因については現在のところ、警察庁が否定したままだ。山上被告の公判が遅れに遅れているのも、警察庁の見解では公判が維持できないからとの説もでている。

金地金相場の推移(三菱マテリアルより)

三菱マテリアルより、金地金相場の推移を掲載しておきます(https://gold.mmc.co.jp/market/gold-price/)。米国の製造業に再生・復活、新規台頭の兆候が明確に出てくるまでは、米国債の金利上昇(相場は低下)は避けられず、国際情勢アナリストからは、「2028年ごろに金相場が1オンス5千ドルぐらいになる」との予想も出ている。

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